美しく並ぶ茅葺と自然
京都府南丹市美山町北集落『かやぶきの里』と呼ばれている。
39棟の茅葺は現在も変わらず住民が住み続けている民家ばかり。人が住むからこそこの風景は保たれている。
高いところから集落の全景を見ていくと茅葺民家の並びは美しく同じ方向に並んでいることがわかる。
山の稜線に沿って、川の流れに沿って平行に立ち並ぶ。また、下から見ると山裾に並んでいることからひな壇状に一望することができる。
確かに美しく並び、山と川と茅葺きの暮らしは美しく整えられたひな壇そのものである。
このように美しく並んでいるのには単に日本人の美的センスだけではなく、暮らしの知恵として大事にしてきたいくつかの要素からなっている。
諸説あるうちの一説を紹介したい。
全国津々浦々さまざまな場所に民家が存在する。特に急な山地ではこのひな壇のように同じ並びで家を横向けに細長く取っている民家が見られる。山の斜面で平地を取るためにはかなりの労力が必要で、横に長くすることで平地に整地する作業を楽にした。
かやぶきの里の民家は正方形とも行かないが横に長いというほどのものはない。斜面ではあるものの川と山の稜線、風に大きく関係しているという考え方ができる。
山に囲まれた谷は風をよく流す。このあたりの茅葺き民家は入母屋で破風がある。破風がある面を川風が流れるようにむけている。屋根を痛めないように、囲炉裏の煙などもうまく流すことができる。単一的な理由ではなく、さまざまな角度でその地にあった民家がオーダーメードで作られていた。住む人や場所に合わせて作られた民家が今もこのように残っていることを感じ、今の私たちの暮らしに対しての想いを振り返るきっかけになれば嬉しい。
『てんごり』が繋いできた伝統と職人
かやぶきの里には39棟の茅葺き屋根が残る。
その多くは江戸時代後期以降のもので、古いものは記録が残っている限りでも240年ほど。
茅葺は永久的に葺き替えることで何百年も住み続けられる民家だ。
茅葺民家は木・竹・ススキ・藁・縄・土などいわば身の回りに存在している素材で作られている。
故に自らで修復をし、たまには専門的な知識を持つ職人に教えを乞いながら伝統は紡がれてきた。
もちろん現在も茅葺民家が残るかやぶきの里では、今も屋根の葺き替え作業が行われている。
茅葺き屋根の材料となるススキは川向の茅場で育成し、村のみんなで刈り取りをする。
昔はそうした茅を茅葺き民家の屋根裏にストックし、屋根が朽ちてきた民家ごとに集落で吹き替えの取り決めをし、『てんごり』によって葺き替える。
『てんごり』
よく聞く言葉で言うと結(ユイ)と言うものに近いだろうか。基本的に屋根の葺き替えは住民たちで行っていた。もちろんその家の家族だけでは不十分なため、集落で集まり、『てんごり』として一緒に作業した。
信用と信頼、助け合いの中で技術と暮らしは繋がれてきた。
今は茅葺き職人と呼ばれる専門の職人が屋根の葺き替えを行うケースがほとんど。昔は茅葺き職人という仕事はあったものの、基本的には農業と兼業で季節になれば茅葺き職人の仕事をしていた。今では日本の伝統を支える貴重な役割を担っている。
かやぶきの里では年に数回タイミングが良ければ葺き替えを見ることができる。伝統を守りつなぐ職人たちの尊い仕事を遠くからそっと応援していただきたい。
わたしたちが綺麗だなぁ。と感じるこの風景には遥か昔からここに住み、暮らしのために美しさを保ってきた人々。暮らしの知恵と伝統を大切に引き継いできた人々。多くの暮らしてきた人々の生き様でこの美しさが保たれている。そんな貴重な暮らしに深く深く敬意を表したい。
くらしとしごと
くらしとしごと。
集落を歩くとほのかに香ばしい匂いが三寒四温の寒風に吹かれて香る。
工房からは村のおばあちゃんたちの話し声と作業の風景が見える。
かやぶきの里は背後に山、目の前には鮎が泳ぐ由良川が流れる。そんな山裾には多くの薬草が自生している。そんな薬草たちを季節によって手作業で採取して薬草茶を作る取り組みが行われている。知識のある人から製法や効能などを聞き、調べて現在「かやぶきの里健康茶」として集落内の店舗で販売されている。(お土産処かやの里・かやぶきの里野田商店)
その製法は全て手作業で行われるもの。
季節に合わせて薬草を採取し、乾燥、炒って調合し完成させる。
主に美山茶、ドクダミ、熊笹、柿の葉、よもぎ、すぎな、オオバコの7種類を適度に調合していく。
かやぶきの里周辺の自然にあるものと、集落に住むおばあちゃんたちの手で一つ一つ作っていくため、多くは作ることができないものの大切に大切に調合されていく。
作業は暑くても寒くても行われ、休憩しながら話しながら行われる。仕事ではあるけれどくらしの中のしごととして毎日のことを話し合ったり相談したり、みんなで集まって楽しみながら活動している姿が伺える。楽しみながら作業する中で技術は伝承され、また繋がっていく。地元の中学生にも薬草茶づくりを体験してもらうなどの活動も行い、未来へつなぐ暮らしを伝えている。
現代ではコンビニや自動販売機、お茶はどこでも買えるものという印象が強く、こだわることも少ないのではないだろうか。
かやぶきの里健康茶はやかんで沸騰したお湯にパックごとゆっくり煮出して飲む。家で落ち着いて家族と、友達と、お客さんと。
手作りから感じる温かみと落ち着くひと時を楽しめる時間にしてほしい。
生きる景観はここから
暮らす。
村の中には暮らしがあります。
野菜は家の周りの畑でゆっくりと栽培し、実りを楽しみに待つ。
村のおばあちゃんやおじいちゃんは野菜作りのプロばかり。何もないところからタネをまき、苗を植え、じっくりとお世話しながら育てていく。
できたものは自分の家や近所の人にお裾分け。自分の畑でできたものと、作っていなかった作物などを交換する。
みんなで支え合いながら、循環した暮らしが見える。
暮らすことは生きること。そして生きる事は生かされることではなく、自分で生きること。
自分の手で生み出し、それらを繋げていく知恵と行動があるからこそ繋がれ、今も茅葺きが残る村になっている。
私たちは生きる景観とともに自分で暮らすことを大切にしています。
時と文化をつなぐ
「つなぐ」では、集落の歴史、茅葺きの文化、里での営みを綴ります。
積み重ねられた時と文化、ここに住む私たちにできることを残していきます。
昔と今と未来を、文化をつなぐ。