春一番の暮らしのしごと「茅しまい」
冬の間、乾燥した空気と山間特有の寒さの中、今年は50センチほどの積雪があった。
30年以上前はもっと雪が多く、冬に雨が降ることはなかったという。
今でも集落内では屋根からの落雪対策の「雪囲い」を設置するところも見られるが、概ね晴れ間が続くと雪は無くなってしまう。
乾燥した冷たい空気の中、川沿いには秋に刈り取った茅が塚となって乾燥の時を待っている。そんな空気にさらされて芯から水分が抜かれた茅は腐りにくく軽く強い。冷たい川の風は時としてこの塚を押し倒してしまうため、定期的に見回り、気がついた場合には立て直し、管理していく。そうして大切に見ていく中で今乾燥の時を終えた。
作業のほとんどは住民で行われる。乾燥しきった茅の塚を倒して一つ一つ分解してまた運びやすいように束ねていく。
藁縄を使って、5束ほどを1束に。車に乗せて専用の倉庫へと運ぶ。
その昔は山の尾根沿いに茅場があり、山から茅を持って下ろしては管理する場所や各家屋の屋根裏部分に収納し、葺き替えの時を待っていたのではないだろうか。
自分たちで管理し、刈り取って収納する。今は専門の職人さんがいるものの、自分たちの生活を自分たちの手で作り上げてきた暮らしが今もなお匂う春の茅場。
春一番の暮らしのしごとがここにあります。
暮らしとともにある風景を守ること
暮らしとともにある風景を守る。
かやぶきの里の愛称で親しまれる「南丹市美山町北集落」は国の重要伝統的建造物群保存地区に選定されている。
ひな壇状に並ぶ茅葺とその風景は日本の一般的な農村集落でその景観を今も残している。
各家には庭等があり、枝垂れ桜や松、梅、百日紅、花桃、紅葉、銀杏など多くの植栽が見られる。
どれも基本的には個人で管理され、今もなお季節によって美しい花を咲かせている。
しかし近年、集落内の松が減少している。
その多くは松枯れと言って、害虫が侵入し、松を食い荒らしてしまうことで枯れてしまう。
松の木は茅葺き民家に対して重要な存在であり、これまで暮らしを守ってきた木でもある。
日本の文化としてお正月には門松を飾る。松の木には古くから長生きと健康のシンボルとされており、健康と幸せを願ってきた。
しかし全国的に松枯れの被害は拡大し続けている。
松には縁起のいいこと以外にも家の周りに植えられていることには役割りがある。
松は風から屋根を守ってくれるという役割があり、かやぶきの里でもほとんどの家の庭に植えられてきた。
景観を守るためにも暮らしと密接に繋がってきた松や庭の植栽を守る活動は大切なもので、『かやぶきの里野田商店』が販売する応援グッズの売り上げの一部を松枯れに対して予防効果がある薬剤注入に使用するなどの活動も行われた。
かやぶきの里はその集落を取り巻く様々なものが保存対象となっている。
茅葺き民家だけでなく、茅葺き民家とともにあるこの風景を全体として守っていく活動を皆さまとともに、今後も続けていきたい。
かやぶきの里では駐車の際にいただく『景観保存協力金』や野田商店で販売している『かやぶきの里応援グッズ』などを通して景観の保存のために活動している。
お越しいただいている皆さまへの感謝と今後のかやぶきの里景観の保全に一層努力していきたい。
美しく並ぶ茅葺と自然
京都府南丹市美山町北集落『かやぶきの里』と呼ばれている。
39棟の茅葺は現在も変わらず住民が住み続けている民家ばかり。人が住むからこそこの風景は保たれている。
高いところから集落の全景を見ていくと茅葺民家の並びは美しく同じ方向に並んでいることがわかる。
山の稜線に沿って、川の流れに沿って平行に立ち並ぶ。また、下から見ると山裾に並んでいることからひな壇状に一望することができる。
確かに美しく並び、山と川と茅葺きの暮らしは美しく整えられたひな壇そのものである。
このように美しく並んでいるのには単に日本人の美的センスだけではなく、暮らしの知恵として大事にしてきたいくつかの要素からなっている。
諸説あるうちの一説を紹介したい。
全国津々浦々さまざまな場所に民家が存在する。特に急な山地ではこのひな壇のように同じ並びで家を横向けに細長く取っている民家が見られる。山の斜面で平地を取るためにはかなりの労力が必要で、横に長くすることで平地に整地する作業を楽にした。
かやぶきの里の民家は正方形とも行かないが横に長いというほどのものはない。斜面ではあるものの川と山の稜線、風に大きく関係しているという考え方ができる。
山に囲まれた谷は風をよく流す。このあたりの茅葺き民家は入母屋で破風がある。破風がある面を川風が流れるようにむけている。屋根を痛めないように、囲炉裏の煙などもうまく流すことができる。単一的な理由ではなく、さまざまな角度でその地にあった民家がオーダーメードで作られていた。住む人や場所に合わせて作られた民家が今もこのように残っていることを感じ、今の私たちの暮らしに対しての想いを振り返るきっかけになれば嬉しい。
『てんごり』が繋いできた伝統と職人
かやぶきの里には39棟の茅葺き屋根が残る。
その多くは江戸時代後期以降のもので、古いものは記録が残っている限りでも240年ほど。
茅葺は永久的に葺き替えることで何百年も住み続けられる民家だ。
茅葺民家は木・竹・ススキ・藁・縄・土などいわば身の回りに存在している素材で作られている。
故に自らで修復をし、たまには専門的な知識を持つ職人に教えを乞いながら伝統は紡がれてきた。
もちろん現在も茅葺民家が残るかやぶきの里では、今も屋根の葺き替え作業が行われている。
茅葺き屋根の材料となるススキは川向の茅場で育成し、村のみんなで刈り取りをする。
昔はそうした茅を茅葺き民家の屋根裏にストックし、屋根が朽ちてきた民家ごとに集落で吹き替えの取り決めをし、『てんごり』によって葺き替える。
『てんごり』
よく聞く言葉で言うと結(ユイ)と言うものに近いだろうか。基本的に屋根の葺き替えは住民たちで行っていた。もちろんその家の家族だけでは不十分なため、集落で集まり、『てんごり』として一緒に作業した。
信用と信頼、助け合いの中で技術と暮らしは繋がれてきた。
今は茅葺き職人と呼ばれる専門の職人が屋根の葺き替えを行うケースがほとんど。昔は茅葺き職人という仕事はあったものの、基本的には農業と兼業で季節になれば茅葺き職人の仕事をしていた。今では日本の伝統を支える貴重な役割を担っている。
かやぶきの里では年に数回タイミングが良ければ葺き替えを見ることができる。伝統を守りつなぐ職人たちの尊い仕事を遠くからそっと応援していただきたい。
わたしたちが綺麗だなぁ。と感じるこの風景には遥か昔からここに住み、暮らしのために美しさを保ってきた人々。暮らしの知恵と伝統を大切に引き継いできた人々。多くの暮らしてきた人々の生き様でこの美しさが保たれている。そんな貴重な暮らしに深く深く敬意を表したい。
くらしとしごと
くらしとしごと。
集落を歩くとほのかに香ばしい匂いが三寒四温の寒風に吹かれて香る。
工房からは村のおばあちゃんたちの話し声と作業の風景が見える。
かやぶきの里は背後に山、目の前には鮎が泳ぐ由良川が流れる。そんな山裾には多くの薬草が自生している。そんな薬草たちを季節によって手作業で採取して薬草茶を作る取り組みが行われている。知識のある人から製法や効能などを聞き、調べて現在「かやぶきの里健康茶」として集落内の店舗で販売されている。(お土産処かやの里・かやぶきの里野田商店)
その製法は全て手作業で行われるもの。
季節に合わせて薬草を採取し、乾燥、炒って調合し完成させる。
主に美山茶、ドクダミ、熊笹、柿の葉、よもぎ、すぎな、オオバコの7種類を適度に調合していく。
かやぶきの里周辺の自然にあるものと、集落に住むおばあちゃんたちの手で一つ一つ作っていくため、多くは作ることができないものの大切に大切に調合されていく。
作業は暑くても寒くても行われ、休憩しながら話しながら行われる。仕事ではあるけれどくらしの中のしごととして毎日のことを話し合ったり相談したり、みんなで集まって楽しみながら活動している姿が伺える。楽しみながら作業する中で技術は伝承され、また繋がっていく。地元の中学生にも薬草茶づくりを体験してもらうなどの活動も行い、未来へつなぐ暮らしを伝えている。
現代ではコンビニや自動販売機、お茶はどこでも買えるものという印象が強く、こだわることも少ないのではないだろうか。
かやぶきの里健康茶はやかんで沸騰したお湯にパックごとゆっくり煮出して飲む。家で落ち着いて家族と、友達と、お客さんと。
手作りから感じる温かみと落ち着くひと時を楽しめる時間にしてほしい。
生きる景観はここから
暮らす。
村の中には暮らしがあります。
野菜は家の周りの畑でゆっくりと栽培し、実りを楽しみに待つ。
村のおばあちゃんやおじいちゃんは野菜作りのプロばかり。何もないところからタネをまき、苗を植え、じっくりとお世話しながら育てていく。
できたものは自分の家や近所の人にお裾分け。自分の畑でできたものと、作っていなかった作物などを交換する。
みんなで支え合いながら、循環した暮らしが見える。
暮らすことは生きること。そして生きる事は生かされることではなく、自分で生きること。
自分の手で生み出し、それらを繋げていく知恵と行動があるからこそ繋がれ、今も茅葺きが残る村になっている。
私たちは生きる景観とともに自分で暮らすことを大切にしています。
時と文化をつなぐ
「つなぐ」では、集落の歴史、茅葺きの文化、里での営みを綴ります。
積み重ねられた時と文化、ここに住む私たちにできることを残していきます。
昔と今と未来を、文化をつなぐ。